夏が来ると、見渡す限りの緑色が鮮やかな蓮の葉が連なる壮大なれんこん畑。
「鳴門ピクルス花れんこん」は、このれんこん畑の片隅にある小さな工房で作られています。
色鮮やかなこのピクルスは、1人の女性の手によって生み出されました。
フラワーデザイナー齋藤住子さん。
1308年開祖の歴史あるお寺に生まれた住子さんは、幼い頃から華道の師匠である祖母について、お寺や家のあらゆる所に花を生けるのを手伝い、花がとても身近にある暮らしをしていました。
また彼女が幼い頃は「女性は結婚したら家に入るのが当然」という風潮だったけれども、彼女の母は仕事を持つ職業婦人でした。
そんな祖母や母の影響を受け、結婚しても仕事を持ちたいとう意識が芽生えたそうです。
26歳の時にアートフラワーの門を叩き、修行を積みました。
その腕前は県の手工芸家協会主催のコンテストで最優秀賞を受賞するほどに。
その後、生花ブーケのデザインを生業とし、ウェディングブーケやリースなどの製作に励みました。
そしていまから約30年前、彼女はこの土地で9代続くれんこん農家に嫁ぎました。
けれども、義理の両親は「畑作業はしないでいい、むしろ大好きなお花を一生続けてほしい」と、心身両面で彼女の仕事を支えてくれました。
時は流れて2013年、ひょんなことから6次産業の加工品をコンクールに出すことに。
小さなれんこんを使ったピクルスを出品してみようと、試行錯誤を重ねました。
強い粘土質の土壌で栽培される鳴門のれんこんは、色白でシャキシャキした食感と濃い味が特徴で、地元はもちろん関西や首都圏でも高級食材として高い人気を得ています。
その収穫はとても骨の折れる重労働で、熟練した技術が必要となります。
収穫の途中で傷がついたり節が折れてしまったものは青果としての価値が下がり、市場に出せないB級品となってしまいます。
「農家さん達が丹精込めて育てた食材を、余すことなく大切に、見た目にも美しく食卓へとお届けしたい」
そんな思いで素材のひとつひとつをお花に見立てて、ピクルスにしました。
薄くスライスした透き通るほど色が白いれんこん、赤や黄色の鮮やかなパプリカ、クコの実、蓮の水中茎や蓮の実。
どの瓶も同じ配置となるように具材の大きさを揃えているのは、フラワーデザイナーならではの感性とこだわりです。
容器の中に美しくレイアウトされたピクルスはまるで花束のよう。
素材の風味や甘さを生かした薄めの味付けのピクルスは、酸味もマイルドで、小さなお子さんからご年配の方まで親しんでいただいています。
そして、さまざまなメディアで紹介されたり、明治神宮への奉献や航空会社の国際線のビジネスクラスとファーストクラスで食事に提供することを検討してもらうところまでも漕ぎつけた。
「れんこんの魅力を自分らしい形で伝えることができたら」と、住子さんは朗らかに笑います。